01灌漑は面白い

灌漑研究の醍醐味とは、どんな点にあるでしょうか。

国によって、また同じ国でも、地域によって、特色が見られるのが灌漑です。オーダーメイドなんです。しかも、その技術は、気候風土、歴史、そこに住む人々の経験に裏打ちされていて、豊かでユニークなんです。

私が大学時代に学んだ灌漑は、机上のもの、総論的なものでしたから、正直いって、平板な印象でした。でも、就職してから、あちこちの国で調査研究をおこなったり、外国の研究者や技術者と交流する機会が増えるにつれて、灌漑が農業生産にとって、つまり人類の未来にとって大きなファクターであることを、ますます強く感じるようになりました。


どの国が一番、灌漑技術のバラエティーに富んでいるのでしょうか。

塩類が集積した畑(中国)

黄河に排水するために掘り込まれた水路(中国)

中国でしょうか。広大な国土だけあって、実にさまざまな技術を駆使していますので、訪れるたびに感激します。小麦はボーダー灌漑、モモの木やブドウ園は水盤灌漑と。しかも、さすが人口12億人の国。ほとんどが圧倒的な数の人力を投入して作りあげられています。ほかに、うね間灌漑、スプリンクラー灌漑、センターピボット灌漑などもあります。

灌漑はつねに、排水とセットで考えないとまずいんです。それがアンバランスだと、塩類集積が起こります。これは、長期にわたる灌漑で地下水が上昇していくと、土層に含まれる塩類も上に運ばれていきます。地表でも、水の蒸発で水中の塩類が取り残される。やがて、地表面が塩類で真っ白に覆われてしまう、という現象です。こうなると、もう作物が育ちません。

中国でも、各地で塩類集積が見られますが、古都・西安近くの洛恵渠では、大きな沼を作って、その水を黄河に抜く方法で塩類集積に対処していました。

世界的に水資源が乏しくなっているとか。今後、灌漑はどんな方向に進むのでしょうか。

砂漠に点在するセンターピボット灌漑(アラビア半島)

限りある水資源をどう効率的に活用するか、これは永遠の課題です。水資源を開発するとともに、効率のよい灌漑方法や施設の設計がますます求められています。近年は、地表灌漑より水の利用効率のよいスプリンクラー灌漑などが増えています。

灌漑は、単に新しい技術がよいのではなく、プロセスも大事です。たとえば、点滴灌漑。これは水の出る穴が小さいので、微細なゴミで詰まりやすい。そのため、別にゴミを取り除く大がかりな装置がいります。でも、そのような装置がないままで点滴灌漑を導入すると、すぐにゴミで目詰まりをおこして、設備が役に立たなくなってしまうんです。

最後に、ご自身の研究生活を振り返って、子どもたちによきアドバイスを。

夢や理想を追うことも大切ですが、まずは自分に与えられた場で、与えられた課題に対して、きちんと結果を出すこと。もちろん、与えられた時間内にです。この積み重ねが次につながっていくのではないでしょうか。

それから、どんな時にも落ち込まないこと。変化は、新しいことにチャレンジできるきっかけになります。だれにも、いつかはチャンスがめぐってきます。そのチャンスを、ぜひ、ものにしてください。

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モモに対する水盤灌漑の準備(中国)

『畑地灌漑施設の設計』(安養寺久男著)
畑地灌漑の中の末端灌漑施設の設計について解説した技術書

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